October 2007
破裂とは
調音音声学において音を分類するときに、二つの概念を使う。一つめは調音位置。例えばPは唇を合わせるから「両唇」が調音位置である。もう一つは調音様式。音を調整する方法は例えばPでは破裂である。したがって、例えば、Pは両唇破裂と分類することができる。 この体系に基づいて音を分類することで、どんな言語にどんな音があるかということがよりよく理解できるようになった。 ところが、、、この知識の体系を英語発音教育に応用したときに、少なくとも一つの問題が起こった。それは、調音方法を「調音の程度」と解釈してしまった点である。Pは破裂音である。したがって、しっかりと破裂させて発音する、、、と。 よく考えてみるとPは英語だけでなく、日本語でも破裂音である。破裂音であること自体は、必ずしも強く破裂させるということではない。弱い破裂もあるし、中間レベルの破裂もある。強い破裂もあるだろう。 実際は破裂のレベル自体は、その音の中核となる性質ではない。怒ってしゃべっていれば、つばが飛び散るほどの勢いで喋るだろうから、破裂が強くなるだろう。控えめに喋るならば、破裂も少ないだろう。 英語は日本語に比べて、強く、しっかり、きっちり、激しく発音する、、、という概念がいつのまにか、私たちの言説に入り込んでしまった。強く発音しようとすればするほど、口発音になり、ネイティブにとっては分かりにくい英語になる。口発音となると音が短くなってしまい英語特有の流動性(3ビートのたまもの)が失われてしまうからである。 破裂のレベルは感情にまかせておけばよいのである。 ちなみに、私達がふつう、破裂といったとき、なんとなく口の中、それも破裂させた地点から前のほうに向かって破裂が起こるという感覚があると思う。例えばTだと、舌と口の屋根があたったところぐらいから、前にむけて、口の外へとでていくような衝動をイメージするのがふつうだ。つばがでるような感じのイメージである。 ところが喉発音を始めると、どちらかというと音の破裂、振動、衝撃は口から首の根元までの非常に広大なスペースに起こりだす。あきらかに、どう考えても喉で喋っている感じになる。 上で書いたことで誤解が起こるかもしれないので補足する。口で起こった音が首の根元に到達するのではない。喉・首で発声した音が口のほうに向けてでていくのである。 我々は声帯が喉にあるというシンプルな事実を長い間忘れていたのではないだろうか。
YOUTUBEより
http://www.youtube.com/watch?v=0kVV0WakC8o YOUTUBEで日本人に英語の発音を教えてらっしゃるかたのVIDEO CLIPです。 彼がきちんきちんと発音してくれる単語を聞くときに、顔ではなくて、「喉仏」に注目してきいてみてください。英語喉において、特に深い場所で発音されると指摘しているFUNやBUGのU、それからCROWDのRなどが発音されるとき、喉仏ががぐーんと下の方向に動いているのがわかります。また全般的に、日本語を喋るときよりも、喉仏・喉の動きが激しいように感じます。 最後のところで、CROWDとCLOUDの違いのテストがありますが、喉仏が下方向に大きく動けばR、、、で答えられますね。もちろん、音で分かるのがベストです。 以下の単語が紹介されますから、喉仏に注目して聞いてください。 FUNとFAN BUGとBAG CROWDとCLOUD 実践でも同じです。相手(ネイティブ)の口の動きにとらわれないで、喉の立体的な音をきいてください。喉をみながら、やってみると練習になるかもしれません(相手に失礼にならないかぎり)。
あいまい音とは何だったのか
従来の発音記号には曖昧音というのがある。曖昧に聞こえるアに似たような音であるが、ネイティブメソッド(英語喉)には、曖昧音が存在しない。これまで曖昧音と思われていた音は、多くの場合、i_(ネイティブメソッド発音記号では小文字のIに下線)であることが多いようだ。あるいは、単にu_(小文字のUに下線)である。 喉の奥深く、首の根元で言う音であるために、曖昧な音とされてきたのだろう。 例えばであるがJAPANESEという単語がある。従来はPAのところのAは曖昧音とされていた。だから、私も昔は、ジャパのパをなんとなく弱め、、、というか曖昧に発音していた。今では、KISSやKITのIと同じ音(文字のIに下線)を出せば、ネイティブと同じ発音になることを知っているので、楽になった。 ところで、、、、 CD音声録音のときに、ナレーター役を務めてくれた友人(著者ではない)がJAPANESEをゆっくり読んだために、PAのAを、小文字のIに下線でなくて、小文字のAに下線の音にしてしまったので取り直しになった。言っていることが分かりにくいと思うので、以下にゆっくり説明してみる。 (発音記号のあとに_がきたら、それは下線と理解してください。下線の引かれた発音記号では首の根元を響かせます。) そもそもJAPANだけだと Ja_P/PaN。でもJAPANESEだとJa_P/Pi_N/NIZ。つまり前者ではPAのところの母音がaだけど、JAPANESEとなるとi_になる。ところが、JAPANESEを(録音のために)ゆっくりよむと、おもわず、間違って、Ja_P/PaN/NIZとなってしまったのだ。だから、早速、取り直しをした(もちろんこのレベルの細かいことは英語ネイティブでない私に分かるわけがない。当然、英語ネイティブ著者の判断)。 このエピソードで理解したことがある。ネイティブがなんらかの理由でゆっくり読むと発音自体が変わってしまうことがある、、、ということ。だからこそ、英語の音を研究する場合は、ネイティブが観察されていると知らずに喋っている英語を対象にし、観察をしなければならない。その結果生まれたのが英語喉である。 日本語でも同じである。外国人に対して「お婆さん」という単語を教えようとすると、どうしても「おばあさん」と発音してしまう。普段は「おばーさん」と発音していても。ゆっくり、おおげさに読むと発音が変わってしまうのである。 英語喉をやると、ネイティブがあなたに対して喋る英語が変わってくる。ふつうに他のネイティブに喋る英語と同じ英語で喋ってくるのである。口の動かし方なども、おおげさでなくなってくるのだ。だからノンネイティブの英語の観察するばあい、本当に気をつけないといけない。ネイティブが口を大げさにしてあなたに喋っているとすると、それはネイティブが「おおげさにしたら通じるだろう」という親切心である可能性が大なのだ。